ぼくの帰る家にはいつも象がいた。マジョラムが現在の場所に移転したときぼくはまだ5歳。移転と同時に制作して頂いたマジョラムの顔としてお馴染みの“鍛鉄の象”に圧倒されたことをはっきりと覚えている。そして去年『カレーとメガネ』をテーマにスタートを切るにあたり、秩父市太田にある工房PAGE ONEを訪ねたのだった。
“鉄人”としての歩み
国内外のトライアスロンの大会に出場するなど文字通りの“鉄人”西田光男氏がキャリアをスタートさせたのは1970年代。当時単に金属を叩いて形作るいわゆる鍛造での工業製品は多く見られたものの、素材として「鉄」を使った鍛鉄はドイツを中心としてヨーロッパでは一般的だったが、国内での認知度はまだ低かった。
そんな中1992年には秩父市に工房を構え、門扉や手摺、フェンス、モニュメントなどの作品を次々に制作し、鍛鉄を確実に日本国内で芸術の一分野として昇華させ、2011年にはドイツの出版社『HEPHAISTOS』誌が選ぶ世界7名の金属工芸家の一人としても選出されるなど、世界を代表する鍛鉄工芸家となった。
鉄と眼鏡
今回のスナップはそんな国内における鍛鉄工芸のパイオニア的存在である西田光男氏にお願いをした。愛用のメガネはこちらの『TRANCTION PRODUCTIONS(トランクション プロダクションズ)』のダイヤシェイプの一本だ。
母体である『Victor Gros(ヴィクター グロス)』社がフランスで1872年の創業以来、視力強制器具としての「道具」を「ファッションアイテム」として昇華させ提案し続ける点は、どこか西田氏と重なる。ブランド名は、アメリカ・ロサンゼルスの芸術家や映画関係者が集まるダウンタウン、TRACTION AVENUEに由来し、アメリカの自由で解放的なエッセンスと、フランスのアートスティックな国民的感性のハイブリッドが、ブランドに一切の興味がない西田氏も思わず手に取った、唯一無二の世界観を生み出している。
そんな西田氏の作品も鍛鉄の世界で、間違いなく唯一無二の異彩を放つ。私が考える西田氏の作品の一番の魅力は圧倒的に“リアルでキャッチー”という点だ。ついつい触れたくなる作品は西田氏の人柄と相まり強く引き込まれる。私も西田氏のような“大人”になりたいと何度思ったことだろうか。
西田氏が提案する『鉄』と共にする生活
昨年制作したマジョラムオリジナルアイテムは、現在も店頭または公式オンラインストアで受注販売中だ。海外からの研修生も受け入れるなど技術の継承にも努める一方で、常に進化と革新を追求しながら世界に発信し続ける西田氏独自の鍛鉄の世界を、是非一度お手に取って頂きたい。西田氏が提案する「鉄」と共にする生活はきっとまだ感じたことがない豊さを僕らに与えてくれるのではないだろうか。
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